梅太郎 (2)
おばあさんが、梅干しの種をごみ箱へ放り投げようとしたそのとき、
「捨てないで!」
どこからか小さな声がしました。
「捨てたらあかん。ぼくやで、ぼく。ほら、ばあちゃんの手ぇのなかにある、梅干しの種やで。」
おばあさんは自分の手指を開げてみました。 捨てようとしていた梅干しの種をよく見ると、なんと、目があり鼻あり口あり耳もあり。シワだらけのその顔が、こっちを見て、にっかぁと笑っているではありませんか!
ひょ・えーーーーー。びっくりしたのなんのって。世の中、こんなことが、あるのかい?おばあさんが、驚きのあまり、カタマッテおりますと、梅干しの種はさらにしゃべりつづけます。
「ぁ。名前はじいちゃんと相談してつけてもらわんでもええで。じいちゃんは、散歩疲れで昼寝中、やろ? もう自分で決めてるねん。梅太郎や。どうや?そのまんまやろ?覚えやすいやろ?」
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。
「なんや。まだカタマッテるんかいな。 どや? ぼくを育ててみぃひんか? 育て方は簡単や。水を飲ませてくれたら、そんでええ。 そしたら、顔のしわもなくなって、手ぇや足や胴がはえてくるんや。ただし、水はきらさんといてや。 そうやないと、まただんだん小さくなって、元の種にもどってしまうさかいな。」
梅太郎は、そう言いながら、またにっかぁと笑いました。
水かいな。水だけでええんやな。おばあさんは、すこし安心してつぶやき、梅太郎を育てることにしました。とは言っても、毎日、梅太郎に水を飲ませたのはおじいさんなんですけどね。
さて、毎日、水をがぶがぶ飲んで、梅太郎はりっぱな若者になりました。
「おじいさん、おばあさん、ぼくをこんなに大きく育ててくれて、ありがとう。ぼくは悪い奴を退治しに行きます。」
と言うと、おばあさんは
「そんなん行かんでもええ。悪い奴は悪い奴で、勝手に悪いことしといたらええのや。そのうちバチ(罰)があたるやろ。 それよりもな、給料のええとこに就職して、なんか買(こ)うてぇな。ひょっひょっひょっ。」
このあばあさんは、ものぐさばあさんでしたが、欲深ばあさんでもありました。
「そっかー。退治よりもモノ、ですね。」 (^0^)/
と、おとなになった梅太郎は納得しました。 持ち前の個性を生かして、全国規模の有名梅干し店に就職し、おばあさんのため、家をリフォームしてランドリー室をつくり、おじいさんのため、サウナ付トレーニングルームをつくりましたとさ。
めでたしっ。
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